早良口
 大正は11年7月26日早朝。ここで、威勢のいい花火が「ポン、ポン」と打ち上がった。チン、チン電車。姪浜までの開通を知らせる花火である。

 この花火の音を聞いて早良口電停前の「黒い屋敷」をめざして、早良の山奥から、原の田舎から人が走った。人力車が走った。

 みんな電車を見るために…。

 それから、田んぼの中を走り続けた市内電車。人間でいえば、54歳。定年前でお役ご免となる。

 当時の光景は、まだ、60歳前後の人たちの記憶に生々しい。父母に手を引かれて、はじめて目の当たりに電車を見た感激が、折りにふれてよみがえる。

 「バスに乗りとうなか、やっぱ買い物は電車の方がヨカ」

 「そうですなあ、電車がのうなったら私も買い物に行きまっせじゃ」

 老人たちの電車に対する愛着は、このように深い。

 西高前、原方面から下ってくるバス、マイカーは、ここで姪浜方面の車と、先を争って右折を急ぐ。だから、イモの子を洗うような混雑がラッシュ時に起きる。古きよき時代を知る老人たちの心が、バスから離れるのはこのためか。